日本ケータイ小説大賞「あたし彼女」の文体が自然な理由を、柳原可奈子で説明します。みたいな
“「こんな小説読んだことない!」と絶賛の声” 日本ケータイ小説大賞、「あたし彼女」に決定
今やネットのどこに行っても「あたし彼女」。我らが弁天様マリア様、瀬戸内ジャックことぱーぷる氏がケータイ小説を書いたことなど忘れ去られてしまっております。あなあたらし。
さて、この「あたし彼女」、非常にユニークな*1文体をしていて、どちらかというと内容より文体が話題になっているみたいです。みたいな。
アタシ
アキ
歳?
23
まぁ今年で24
彼氏?
まぁ
当たり前に
いる
てか
いない訳ないじゃん
みたいな
彼氏は
普通
てか
アタシが付き合って
あげてる
みたいな
http://nkst.jp/vote2/novel.php?auther=20080001&page=1
一見、モノローグ的というか、非常にだらだらしています。実際はもっと改行がすごいので、ぜひリンク元に行ってごらんください。ものすごい改行の嵐で、一般的な小説や、普段喋っている言葉とはかけ離れた印象を与えます。
しかし、この文章を敬語にして、実際に話されるような話し言葉にしてみましょう。
アタシぃー、アキっていうんですけどぉー、えー?歳ですかぁー?23ですぅー。あー、まぁ、今年で24なんですけどぉー、あぁ、彼氏ですかぁー?んー、まぁー、当たり前にいますよぉー、いや、てか、いない訳なくなくないですかぁー?みたいなぁ。てか、てかぁー、彼氏はぁー、普通いますよぉー、んー、てかぁ、アタシが付き合ってあげてるんですけどぉー、みたいなぁ?
これはそのまま、ぽっちゃり系女芸人の柳原可奈子のネタの口調に当てはまります。最初に「あー、テンチョー、おつかれさまでーす」をつければ完璧に彼女のネタになります。彼女は語尾を延ばして喋りますよね。あの芸風がウケたからには、日本中で多くの人が「あんな喋り方するやつ、いるいる!」と共感しているのではないでしょうか。そう、柳原可奈子のネタ的な女性、つまりこのケータイ小説のメイン読者層の女性の会話には、語尾伸ばしが多発するのです。*2
彼女らの日常会話を直接文章に写し取った時、どうしても語尾伸ばしなどの「意味の無い部分」が頻発します。そこで、「若者の言葉で」語っているケータイ小説では、語尾伸ばしが担っていた『間』をつくる役割をあのしつこい改行が代行しているわけです。だから、この一見奇想天外な文体が「リアリティがある」と評されるのです。この一見まだるっこしいリズムは、彼女たちの日常会話のリズムそのものなのです。だからこそ、ケータイ小説は普段このような喋り方をしていない人には読みづらく、また彼女たちには「自分たちと同じ感覚で書かれている。これがアタシたちのリアル」と受け取られるのです。
余談ですが、ケータイ小説の内容がセックス・ホスト・妊娠・中絶などに偏っているのは、おそらく少女漫画やレディコミ、雑誌などがそういうテーマを頻繁に扱っているからで、とても自然なことだと思います。触れる活字媒体はほぼ漫画と雑誌だけ、という人がケータイ小説を書くとすると、やはりお話のテーマは漫画と雑誌からとってくるしかない、ということになるのではないでしょうか。
ちなみに僕は、源氏物語の「雨夜の品定め」を題材にしたケータイ小説を執筆中なので「あたし彼女」の作者が羨ましくてたまりません。ララバイ。