村上春樹はバッターボックスに立つと、おもむろにホームラン予告をした

エルサレム16日共同】作家の村上春樹さんが15日行った「エルサレム賞」授賞式の記念講演の要旨は次の通り。
一、イスラエルの(パレスチナ自治区)ガザ攻撃では多くの非武装市民を含む1000人以上が命を落とした。受賞に来ることで、圧倒的な軍事力を使う政策を支持する印象を与えかねないと思ったが、欠席して何も言わないより話すことを選んだ。
一、わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ。壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。
一、高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の民間人で、押しつぶされ、撃たれる。
一、さらに深い意味がある。わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。
一、壁はあまりに高く、強大に見えてわたしたちは希望を失いがちだ。しかし、わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。制度がわたしたちを利用し、増殖するのを許してはならない。制度がわたしたちをつくったのでなく、わたしたちが制度をつくったのだ。

http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2009021601000180_Detail.html

 これ、ホームラン予告ですね。このスピーチも凄いけど、小説家である村上さんが、世の中にいちばん大きい影響を与えられるフィールドは、小説であって、村上さんは当然そのことがわかっている。となると、このスピーチに込められた村上さんの思いを、さらに何千倍も何万倍も強く伝える小説を、これから(も)書いていくという決意表明でしょう。60歳の村上さんは、どんな思いでこのホームラン予告を読んだのでしょうか。改めて、村上春樹という小説家は、忘れたころに強烈な一撃を喰らわしてくる存在です。